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「悪かったね、ちょっとした質問で終えるつもりが、変な話になってしまった」
「いえ、大丈夫です。それよりも、私への質問はもう良いんですか?」
「あぁ、ありがとう十分だよ。これ以上、ひき止めてしまうと遅くなってしまう。ご両親に心配を掛けるわけにもいかないからね...」
「ただ...」と、照玄は続けた。
「もし、他にも話したい事があるのであれば、倫広にだけでも伝えてあげて欲しい。クラスメイト同士のほうが、言いやすいということもあるだろうしね」
「...わかりました」と、頷く桜井を前に、照玄和尚は僕に目を向けてくる。
「という訳だ。倫広、桜井さんを家まで送ってあげなさい。間もなく日も暮れる。女の子一人では心配だ」
そう言って、照玄和尚は彼女に見えないようにウインクを寄越した。
何のウインクだか解らないが、僕にとっては勿論、断る理由はない。
「じゃあ...行こうか?」と、桜井を促した。彼女もまた、「うん」と、静かに席を立つ。
同行を拒否されなかった事が、ちょっとだけ嬉しかった。
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