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「あなたとも一緒にいたいと」
まるで盲いた人が、相手の顔に触れて確かめるように、天女はあえかな指先で日生の陽に焼けた面をなぞる。
「だから、このまま、衣が見つからなくても、ずっと……」
男は急に爆発したように泣き出すと、女に抱きついた。
「どうして」
結い上げられた漆黒の髪をもみくちゃにするように掴み、陶器じみた白い頬に自らの頬を押し当て、涙を混ぜ合わせた。
「どうしてなんだ」
虹色の光が灼き尽くすように強まりながら、抱き合う二人を覆っていく。
*****
その日を境に、山を降りる若者の姿を目にした者はいない。
しかし、史書の伝えるところでは、この日、山の頂から一対の鳳凰が連れ立って西へ飛び去る姿を多くの人が見たという。(了)
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