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――ハハハ、ハハハ、ウフフフフ……。
響いてくる声が、はっきりと人の女の笑い声の様相を取り始めた。
行李を背負った若者は足を止める。
「誰かいる……?」
日生は急に不安に駆られた面持ちで行く先を見上げた。
行く手に見える、一本だけ図抜けて高い竹の葉の上に、何か、紗の衣のようなものが引っ掛かっている。
風を受けてゆらゆら揺れながら、それは陽の光を浴びて七色に煌いていた。
「何だ、あれは」
日生はまるで吸い寄せられるように足を早めた。
一歩近付くたびに、不思議な布は、まるで手招きするようにはためく光彩を鮮やかにしていく。
――フフ、ハハハハハハハ……。
聞こえてくる笑い声も耳の中で大きくなってくる。
その声は、手放しに喜ぶ調子からして童女かと察せられたが、しかし、子供にはない厚みをどこかに備えているようにも思えた。
次第に開けてくる空は、抜けるように青く、陽射しは一足ごとに強まっていくようであった。
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