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「うわっ」
唐突にこちらにぶつかってきた風と共に、視野がワッと一気に明るくなって、緑と紫の残像に閉ざされる。
山道に仰向けに倒れた日生は、後頭部に軽い衝撃の名残を味わいつつ、顔全体を羽毛に覆われた感触を覚えた。
顔に貼り付いたものを剥がし、また視野に叢を取り戻した瞬間、今度は横から声が耳に飛び込んできた。
「誰かいるの?」
綿のように柔らかで甘い声である。
「そこに、誰か……」
しかし、日生が返事をする前に、唐突に、ザーッと大波にも似た音を立てて、風が通り過ぎた。
男は弾かれたように立ち上がると、元来た道を掛け戻っていく。
ゴーッと吠えるように背中に打ちつける風に追われて走りながら、日生は我知らず手にした衣を胸に抱き締めていた。
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