夏の呼び声

6/7
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
あばら家に飛び込んで、錠を差すと、日生はやっと安心してその場に座り込んだ。 だが、片手に抱えた衣は、まるでそこだけ小さな虹が架かったように七色の光を発している。 男はぎょっとして、まるで炎が燃え移るのを防ぐかのように、持っていた衣を放り出す。 衣は床にはらりと広がると、面積が増えた分だけ余計に強く、虹色の光彩を放ちだした。 「こりゃ、えらいもんだ」 日生は慌てて、衣をまた拾って畳むと、家の中を天上から床までぐるりと見回した。 と、部屋の一角に、床の張り板が一枚わずかに浮き出ているのが目に入る。 思わず、駆け寄って、張り板を外し、生じた暗い隙間に畳んだ衣を押し込んで、また上から板を嵌め込む。 「取り敢えずは、ここに……」 若い男の全体重を掛けると、張り板はあるべき位置にカチリと収まった。 しかし、今度は、張り板同士の微かな隙からは、虹色の光が淡く漏れ出ているのに気付く。 日生が再び家内を見回すと、部屋の別の隅に、母親の遺した長持が、忘れられたように置かれているのが目に入った。 光の漏れ出る部屋の一角に、蓋するように長持を運んで置くと、部屋はまた元通りの明るさに戻った。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!