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大学を卒業すると晴れて社会人――とならないのが、自由業を選んだ尾上家の現実だった。
政はほぼ毎日、お稽古の先生として、都心や地元の書道教室へ通い、教え、加奈江は自宅へ持ち帰った筆耕の仕事をしていた。
冬場に半纏を仕立てたり、自分が着る普段着ぐらいなら縫ってしまえる加奈江は内職系の仕事に事欠かなかった。
これには、子供の頃から女のたしなみとして仕込んでくれた母に大いに感謝した。見よう見まねで始めた洋裁や編み物は家族の衣服を作るのに充分な腕前だったし、和裁に至ってはまとまった額の収入になった。
そもそも新人サラリーマンの初任給は微々たるものだが、今の政の収入ではそこすらおぼつかない。
自由業ならではの気ままさは、不安定とも言い換えられる。
心許ない分を補ったのは加奈江の内職とやりくりだった。
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