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もう少し、夜の散歩をふたりで楽しみたいのに、させてもらえなかった。
今日は絶好の機会なのだもの。
「仕方ないな」
鼻の脇を指でこすって、政は言った。
「じゃ、メシ食ったら、すぐに戻るんだぞ」
「うん、それでいい」
「どこへ行く」
「水辺のレストランはどう?」
お祭り広場の脇には大きな池があり、イサム・ノグチがデザインした噴水が色とりどりの光に映えて水しぶきを上げている。ふたりはそこで、結婚して正月を除いて初めて、豪勢な夕食を取った。
普段の吝嗇ぶりがうかがえて恥ずかしかったけれど、滅多に食べたことがないステーキやフライは美味しかった。それぞれに別のメニューを頼んで、ふたりで仲良く分け合った。
一般のレストランではひとつのメニューを取り分けて食べるなど、マナー破りもいいところ、御法度に近いのだが、あまり行儀の良くないことを、わかっていて子供のようにはしゃいでしまえるのも旅先故の開放感がなせること。
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