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桜の季節から葉桜へ変わった頃のこと。
尾上家に一通の封書が届いた。
中に入っていたのは、線画が目にも鮮やかで、日本中でこれが何なのか知らない人はほとんどいないと思われるチケットが二枚。
万博の入場券だ。
一枚ぺらっと入っていた紙には「おめでとうございます」の文字が躍っていた。
今年は1970年。
大阪ではこの年の三月から日本万国博覧会が開かれていた。
開催に先立ち、日本中はこの話題で持ちきりとなり、方々で入場券が懸賞品としてもてはやされた。「○○を買って万博へ行こう」というやつだ。
「新婚旅行がわりに行ってくるといい」と義父は言い、チケットと旅費を手配しようとしてくれたが、ふたりは「とんでもない」と一度は断った。でも、実はふたりそろって少し後悔していた。
国内外を揺るがす一大イベントに興を惹かれない若者はいないからだ。
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