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「フジョキとフショウフって似てない?」
吐息と喘ぎの狭間に突然投げ込まれた質問に、はだけさせた私の胸元に埋められていた男の顔が上がる。眼下に、男の唾液で蛞蝓の這った跡みたいに光る白い肌と何とも言えない間抜け面が並ぶ。気持ち悪い。髭ぐらい剃りなさいよ。
「何でもない。でも、ごめんね。それは駄目なの」
男に跨ったまま片手を挙げる。
派手なスーツに身を包んで近づいてくるボーイが視界に入る。似合わない。あなたは裸の方がずっと魅力的なのに。それに、そのネクタイ、見覚えない。さよならは必要?
「お客様、お触りは上半身のみとなります。右手をお放し下さい。マヤさん、十二番席、ご指名です」
たくしあげられたロングドレスの安っぽい白の下から渋々手が引かれる。ついでにと、私はその中指を根元まで咥えて、更に安っぽい科白を売ることにした。
「あたし、ちゃんと濡れてたでしょ?また来てね」
ドレスのホルターネックを結びながら、恍惚の浮かぶ間抜け面の唇にとどめの一嘗めも差し上げる。こんな快楽擬きで満たされるなら、いつでも買いに来れば良い。そうね、クロエのバッグで良いわ。なんて単純ないきもの。
不自然に大きな音量で流される奏者も曲名も知らないジャズナンバーに合わせて、引っ掛けたピンヒールで小さくタップを叩きながら、狭いフロアに並べられた一人掛けのソファの間を縫い進む。
赤みを帯びた間接照明から隠れる様に、重なり合う獣のなり損ないの群れを眺める。咽返るほどに溢れた、満たしきらない欲望の匂いと諦めにも似た嬌声に腹部が軋んだ。生理近いかも。
狭い控室は視覚的にも分かるほど紫煙が充満していて、顔を顰める。香りは嫌いではないが、性を売った上に"生"まで売る気には、まだなれなかった。
無造作に流し台に並べられたアルコールティッシュとうがい薬。入念に、清潔に。でも、こんなもので穢れが拭えるなら、きっとこんな場所には誰もいない。皮膚や粘膜の奥に蓄積された細菌も猜疑心も、好いてはいないけれど失えないものだから。分かってる。きっとこれも、微かに残った醜い自尊心。
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