第1章

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近い。すごく近い。あぁ、こいつは私のことが好きなんだなぁと気がつく。それに呼吸が苦しくなる。 「爽やかイケメンって変態なんですね。出会って二日の相手にキスするなんて……イケメン変態と呼びましょう」 「イケメン変態って」 「セクハラーって叫べば痴漢で逮捕できますね」 「それは勘弁してほしいなぁー」 爽やかイケメンが片手で頭を掻きながら笑う。後先考えてない行動に頭痛がした。 「逮捕されたくなければ、近寄らないでください。セクハラ変態」 「できれば、爽やかイケメンがいいんだけど?」 そんなことを言って聞き入れてもらえるとでも思っているのか。このアホはと、シッシッと手を振るとおとなしく爽やかイケメンは離れていった。セクハラ変態は語感が悪いから爽やかイケメンで勘弁してやろうと頷いて、口元に触れるギュッと奥歯を噛み、頭痛にこらえた。何かが芽生える。 いつもの電車とは変えようかと思ったけれど、通い慣れているため変えることもできずいつものように電車の座席に座っていると、爽やかイケメンがやってきた。爽やかスマイルが微妙にぎこちない。 「おはよーっす。不思議ちゃん」 「死んでください。爽やかイケメン」 「俺、挨拶した相手に死ねって言われたのはじめて」 と言いつつ爽やかイケメンが私の隣に座る。昨日と距離が近くなっているぞ。むむむと眉間にシワを寄せていると爽やかイケメンがいいよねみたいな顔をした。 「あのさ、もう、わかってるかもしんないけど、俺って君のこと好きなんだよね」 「ええ、そうでしょうね」 「だから、返事をくれたらなーって思うんだけど?」 「爽やかイケメンは頭が空っぽなんですね。あんなんでいい返事をもらえるとでも思ってるんですか?」 ズキリと胸が痛む。この痛みはいったいなんだろうか。でも、これが相手の好きの痛みでないことはなんとなく、わかった。 「う、うーん、だよね。仕方ないよねぇ、あ、アハハハ、そうだよねー」 爽やかイケメンが露骨に落ち込む。そんなに私と付き合いたかったのか。 「私は恋を、できません」 「あん? できないって親にでも禁止されてんの?」 「いえ、別に私の親は放任主義なので私がどうだろうと気にかけませんし、もう、二十歳なので独り立ちしてます」 こう見えて一人暮らしの社会人なのだ。特に偉くもないことを内心で呟く。通勤途中でもあるわけで朝っぱらから
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