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第一話 アタシから、甘い蜜
「…はぁ」
寒い日の夜、カフェバーのお洒落な照明の光が照らすのは、カクテルグラスの中で小さな音を立てる氷。
丸く型取られた氷の中には、マスターこだわりの花の砂糖漬けが咲いている。
薄暗い店内のバ―テーブルに、花の影が柔らかく、少し形を変えて落ちる。
キラキラ女子が大好きな、『お洒落』な時間、空間、物、そしてそれに囲まれている『お洒落』な『ワタシ』。
とても憧れていたはずなのに、今の私にはそれを実感する余裕なんてなかった。
右肩がとても、あつくてあつくて。
「になチャン、顔赤いよ。もう酔った?」
彼は流し目で私を見ていた。
長いまつげも優しそうな表情も、今はとても妖しく見えて、思わず目をそらした。
カクテルのせいで、自分の吐息が熱くなっているのが分かる。
体の中が蒸されているような、急き立てられているような。
「大丈夫です…。少し…あついだけで」
そう言って手のひらを自分に向けてパタパタと仰いで見せた。
そう、顔が赤いのはお酒のせいだし、息が上がるのもお酒のせい。
彼をまっすぐ見られないのも、いつもみたく無邪気に笑えないのも。
そんな私に彼は言った。
「体が熱い時って、理由は2つあるんだよね」
「2つ?」
彼が体をこちらに傾けて、少し低い声で囁いた。
「アルコールで脈が上がってるときと」
彼の声に背中がゾクリと震た。
計算された危険な香り。
「ヤバイ」と思った時にはもう、彼の左腕の中に私はぎゅっと包まれていた。
「男に欲情してるとき」
「ちが…そんなんじゃ…」
「ない、って?嘘だね。カラダは正直」
ほら、もうだめ。彼の言葉が毒になる。
「今夜は俺がもらっていいでしょ?」
第一話 アタシから、甘い蜜
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