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痛みはないが、あの時の光景が思い浮かぶ背中から手を回してきた彼女がその胸をギュッと押し当ててくる。こてんと肩に顔を置いてニッコリと微笑んだ。俺もぎこちないながらも笑みを返す。細い手が腹筋を撫でる、くすぐったさと愛おしさに目元が細くなる。
「また、思い出してたの? 」
「なんで、そう思う?」
「なんとなく、かな。こう見えても中学生からの腐れ縁ですからね」
「そうだな。お前がいなかったら俺、どうなってたかわかんねーから感謝してる」
でも、一度、負った傷は一生、癒えない、そんな気がする。傷が癒えて、痛みが消えてけれど、無くなることのない傷跡。それが俺の過去を抉る。あの時の、親友だと思っていたあいつに背中を引き裂かれたあの時まで彼女に撫でられながらベッドに寝ころんだ。どうして、こうなったんだ。何度、問いかけても答えは返ってはこない。
あいつと出会ったのは小学生、低学年の頃だった。一年の頃に仲良くなって、友達になった。明るくて気さくな奴だったけれど、あいつが豹変し始めたのもその頃だった。何かきっかけがあったのかもしれない。もしかしたらどこかに引き金らしきものがあったのかもしれない。今になってはもう何もわからない。ただ、一つ言えることはあいつが、後輩からお兄さんと、弟から兄貴と呼ばれていまあいつをたとえ、ぶん殴っても改心させてやるべきだったという後悔だけだ。
表向きには仲良しのクラスだったが、誰もがそいつに話しかけようとはしない。いつもクラスはどんよりと息苦しくてその男の一挙手一投足にぎこちなく反応する。
最初は頭のおかしくなったのだとバカにしていたが、ある一件でそれは恐怖に塗り変わった。
「あんたの首に蛇が巻きついているよ」
と、男は言った。ニヤニヤとした笑みに汚い髪の毛をバカにしていたグループの一人に向かってまっすぐ言った。
もちろん、そんなの誰も信じることはない。頭のおかしな奴が今度は妄言を吐き出した。その程度のことでしかない、友達を失うのが怖くて、距離をおいていたこの俺に向かって言った。
『俺達は親友だよな』
なんて誰でも言えることを言いながら簡単に裏切った俺へのあてつけかと思ったが、ここで泣き寝入りするわけにはいかない。もしも、肩入れしたなんて思われれば仲間外れにされてしまう。自分の軽率で保身しか考えていなくて、何も言えないでいた。怖くて何も言い返すことができなかった。
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