兄貴と蛇

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女は髪の毛を一本ひ引き抜いた。 「絶対じゃ、絶対に妾のことを誰にも喋ってはならんぞ。そのときは……」 引き抜かれた蛇が俺の首筋にピタリと張り付き首を一周して趣味の悪い首輪が完成。 「そよ首輪が締まりうぬを絞め殺す。うぬが死んだとき妾はお前の肉体と魂をもらうでのう。それまでせいぜい長生きせい、魂は年を取れば取るほど美味くなるものじゃからな」 カカカと女は笑うと同時に、首輪が閉まる。気道が塞がれて呼吸ができずバタバタと暴れて手足をめちゃくちゃにに動かす。話が違う、俺は誰にも話し手なんてないのにと愚痴ることもできず、意識を失う寸前で蛇の首輪が緩んで息苦しさと共に眠った。 そんなことがあってから蛇が現れることはなかったが、そのかわりに蛇の首輪は自分にだけが見れると言う形で残ってしまった。誰にも話すことはできないけれど、そのかわり自分の首に首吊り用のロープを常に引っ掛けていることになってしまったことに胃がキリキリと痛んだが、蛇に悩まされることもなくなり、友達と遊ぶことも多くだんだん、忘れていられたが、あいつだけにはできる限り近寄らないようにした。 もしも、あいつともう一度、出会ってしまったらきっと詰め寄って、洗いざらい話した挙げ句、詰め寄ってしまう気がしたからだ。 蛇は消えない。あの女も気まぐれに夜中に現れては俺をからかうこともあったけれど、そんなことが日常になり始めていた。慣れにも似たものかもしれない。慣れて受け入れて、そうすることで目をそらしていたのかもしれない、そうしていればきっと、ああ、夢だったんだで笑えるなんてくだらないことで現実逃避をしていたけれど、そんな生半可なことでは決して逃れることなんてできないのに。 「蛇姫様?」 友達のひとりが唐突に言ったおまじないに俺は聞き返した。俺の他にも友達数人が興味半分に聞いている。俺達の間ではおまじないや、オカルトの類はあいつと同類扱いされるためあまり流行ったりしなかったのだが、それはいつのまにか流行っていた。 「そ、蛇姫様、あいうえおの文字に、ここに蛇の名前を書くんだよ。で、十円玉をここに置く」 友達がそう言っていくが、それはこっくりさんの亜種というか、少々、歪曲したおまじないでしななくて、かけ声なんかが少し違う程度でこっくりさんとこれといって違いはない。 「蛇姫様、蛇姫様。私達のお願いを聞いてくれますか」
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