兄貴と蛇

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俺を含めた友達数人が十円玉に指を置く。蛇姫様、蛇姫様という台詞が放課後の教室に響く。首に巻きついた蛇がブルリと振動したようなしたがその場の空気を壊したくなくて、できる限り平常心を保って蛇姫様と言い続けた。 それは唐突に起こった。蛍光灯がパンッと風船が割れた時の音のようなものと共に消える。シャーシャーという蛇の息づかいが聞こえたときにはあきらかに異常事態だとわかっていても、やめることはできなかった、十円玉から手を離すことができない、接着剤でも貼り付けていたように十円玉から離れない。口も同じように蛇姫様、蛇姫様と繰り返し、繰り返しいいつづけている。 その中の友達の一人がダラダラと脂汗をかきながらパクパクと口を動かす。俺も含めて数人がギョッと目を見開いた。その友達の首には大きな蛇がチロチロと舌を出しながら首に乗っかっていて、いつか友達の首を締め付けるかわからない、そんな中で蛇姫の位置で止まっていた十円玉がひとりでにうごきだした。 よ、く、も、 よ、び、だ、し、て く、れ、た、な に、が、さ、な、い コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、コ、ロ、ス、ぜ、ん、い、ん、し、め、こ、ろ、し、て、や、る。 友達の首に巻きついていた蛇が動き出し、蛇に巻きついた。友達の顔にまみれていた汗がひっこみ、逆に青白くなる。パクパクと口を動かすが声にはならない。友達が死んでいく様をまざまざと見せつけられるという絶望感にさいなまれそうになったが、パチンと教室の蛍光灯の電気がついた。友達に巻きついていた蛇がサーッと目の前から消えて、弾かれたように十円玉から手を離した。はじかれるように手を離して俺は床に座り込んだ。 「おまえらさぁ。不勉強なくせに降霊術の真似事なんてしてんじゃねーよ。死にたいのか」 汚い髪にニヤニヤとした気色悪い笑みを浮かべた男がコツコツと足音をたてて入ってくる。友達のひとりが「お兄さん」と呟いた。 その男はその呼び名にはいっさい気にかけることなく、あいうえおの文字を書かれた紙を取り上げるとビリビリと破っていく。それに合わせて友達のほとんどが慌て出て行く。 「お前、こうなるかもって予感があったのかよ」 取り残された。俺は思わず聞いていた。
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