第一章 Under The Moonlight

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水曜日、5限目、体育。 「勝!」 そういって、クラスメートは俺にボールをパスする。 俺はそれを受け取って、サッカーゴールネットに思いっきりシュートする。 本日5本目のゴールを俺は、見事に決めた。 それとともに、歓声が響き、女子の黄色い声援がドッと増した。 「勝、さすがっ」 俺にそう言う友人A、もとい、親友の東郷証(とうごう あかし)。 高校1年の時のクラスメートで現在進行中。 「証も少しはサッカーに参加しろよ」 木陰で休んでいる親友に向けて言う。 本当に、ここの理事長の息子とは思えない態度の悪さ。 「俺はいいの。暑いの嫌いなの。もう終わりだし」 そういって、タイミング良く鳴る授業終了のチャイム。 「お前、狙ってただろ」 「そんなわけないだろ。たまたま、ほら俺は先戻ってるから早く体育終わらせてこいよ」 そう言って、計算高い友人は体育教師が生徒に号令をかける前に、グランドから去っていった。 「まだ、終わってねぇだろ」 そう俺はぼやきながら、生徒が並ぶ列に並んだ。 証は、本当に猫みたいな自由奔放な奴。 気まぐれだし、気が付いたらいねぇし。 だけど、気の合う数少ない友人。 それに頭も良い。学年2位ということに、本人は納得していないらしいが、凄い事だと俺は思う。 「気を付け、礼、ありがとうございましたっ!!」 体育は終わり、俺は教室に戻る。 女子は俺の周りに集まってくる。 男子も俺の周りに集まってくる。 何もしなくても、俺の周りには自然と人が集まる。 小さい時から俺の周りには人がいつもいた気がする。 だから、何不自由ない。 だけど、だからって孤独を知らないわけじゃない。 孤独を知っている。だけど、それが本当に孤独だったのかは、君に出会ってわからなくなる。 渡り廊下、誰よりもそこを早く通った女子生徒。 長い黒髪を揺らして、片手に日傘を持ったその生徒は誰よりも美しくて、だけど誰よりも孤独を知っていた。 今の俺には、その生徒の事も、これから起こることすらも、知らず、今の暮らしに少しの不満を抱きながらも、日々変わらず過ごしていた。
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