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「勝、帰るぞ」
帰り支度を済ました証が、まだ済ませていない俺に言った。
「おう、今行く」
俺はすぐに帰り支度を済ませ、証の待つところに行った。
いつも帰りは、証とあともう一人。
「あー、あたしも帰る!」
茶色に染めた髪を肩ぐらいまで伸ばして、笑顔で俺のもとに走ってくる女の子。
間宮 悠里(まみや ゆうり)。こいつは俺の幼馴染。
こいつを入れた3人、つまり俺と証と悠里で帰るのがいつもの日常。
と言っても、俺は自転車通学なわけで。
徒歩5分の駅まで俺が見送る感じになる。
駅まで3人、他愛もない話をして、歩く。
「勝は今日もバイト?」
「俺はいつもバイトなの、生活費の為」
両親が離婚して以来、ほとんど休暇なしに働いている。
これもすべて生活費のためだと、今はそう言っておく。
「生活費の為?性欲の為じゃなくて?」
証は、ニヤッと馬鹿にしたように俺を見ていた。
「うわっ、勝、最低!」
悠里は、そういう割には面白がって、俺を証と馬鹿にしているようにしか見えない。
「ちょっと、待てよ。言い寄って来る女が悪い。証だって、媚びうる女がいたら、受け入れるだろう?」
「俺は、そんなことしない。俺は一人の女の子しか見れないし。それに今は、恋愛より、ほっとけない奴がいるんだよ」
そういう証の目は、俺や悠里を見ず、道の先、もっと先の何かを目に映していた。
悲しみのような、哀れみにも似たもの。
そう感じたのは、俺だけみたいで。
「何、好きな子でもいるの?」
悠里は平気で、証に問いかける。
「違う。恋愛なんかよりもっと大切なこと。要するに、子供なのに背伸びしているようなやつには、絶対にわからないことだって」
「それって、俺の事だよな?俺にだって、恋の一つや二つくらい」
「そう言ってる時点で、だめだよねー。ねぇ、東郷?」
「間宮さんの言う通り。まぁ、勝は根本的なところから駄目だけどね」
そう言って、証と悠里は、顔を見合わせ、「確かに」っと言って笑った。
俺が感じた証の暗い瞳はそのころには、何も感じなくなって、なんか誤魔化されたような気にもなった。
だけど、証が触れてほしくないのなら、俺が無理に触れるようなことはしない。
それが俺と証の信頼の証。
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