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「あーー、もう駅だ」
学校から駅までは徒歩5分の距離。
話をしていたら、あっという間についてしまう。
「じゃな、また明日。俺はバイトだから、すぐに帰るぞ」
「わかってます。邪魔しませんー。またね」
「勝、また明日」
俺は二人と別れて、自転車で家へと帰った。
駅から、15分。
それが俺が暮らしている家賃4万5千円1Kマンションに帰るための時間。
家賃4万5千円と言っても、親が払っているから、俺にはあまり関係ない事なんだけど。
だからって、食費や光熱費、その他諸々は俺が払っているわけで、バイトをしないわけにはいかないのが現状。
離婚するとき、全てを払ってくれると言った父と母だけど、頼りっぱなしになるのも嫌で、生活費くらいは自分で払うと家を出た。
知り合いの兄ちゃんにお世話になりながら、今まで、生活してきたわけだ。
マンションの3階302号室が俺の部屋。
鍵を取り出して、部屋に入る。
「ただいま」
静まり返った暗い部屋に俺の声は飲み込まれた。
だけど、今でも聞こえてくる。
両親の怒鳴り声。
机を叩く音。
物が割れる音。
俺がイラつきながら、階段を駆ける音。
勢いよく閉まる扉の音。
そして、日常が壊れていく音。
もはや幻聴でしかないその音たちは、1年以上経っている今でも、どうして聞こえてくるのだろうか。
俺はそんな考えをかき消すかのように、荒々しく靴を脱ぎ、制服を脱ぐ。
少し大人びた服を着て、辺りが暗くなるころまで、ゆっくりと時間を過ごした。
そして、家を出る。
繁華街まで10分ほど歩いて、少し周りを見渡せば、女の子がうじゃうじゃ。
少し前を通るだけで、黄色い声が上がる。
毎日毎日、飽きないやつら。
そう俺は、心の中で罵った。
どこか絶望に近い感情を抱いている俺は、仕事場に近づくに連れて、その感情を消し去って、仕事モードに変わっていく。
そうすると、自然と女は俺に近寄って来る。
「勝君よね?」
俺はここらでは有名らしい。
そりゃそうだ。飽きもせず、毎日のようにナンパみたいなことを繰り返していたから。
それは心に空いた穴を埋めるように。
馬鹿みたいに、発情している雄のように、性欲を満たす為だけのように。
俺は、毎晩、フェロモン全開で、この辺をうろついていた、これは少し前のこと。
最近では、今みたいに簡単に女は釣れる。
する必要がなくなったといえば、そうなのだろう。
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