第一章 Under The Moonlight

5/7
前へ
/8ページ
次へ
「あーー、もう駅だ」 学校から駅までは徒歩5分の距離。 話をしていたら、あっという間についてしまう。 「じゃな、また明日。俺はバイトだから、すぐに帰るぞ」 「わかってます。邪魔しませんー。またね」 「勝、また明日」 俺は二人と別れて、自転車で家へと帰った。 駅から、15分。 それが俺が暮らしている家賃4万5千円1Kマンションに帰るための時間。 家賃4万5千円と言っても、親が払っているから、俺にはあまり関係ない事なんだけど。 だからって、食費や光熱費、その他諸々は俺が払っているわけで、バイトをしないわけにはいかないのが現状。 離婚するとき、全てを払ってくれると言った父と母だけど、頼りっぱなしになるのも嫌で、生活費くらいは自分で払うと家を出た。 知り合いの兄ちゃんにお世話になりながら、今まで、生活してきたわけだ。 マンションの3階302号室が俺の部屋。 鍵を取り出して、部屋に入る。 「ただいま」 静まり返った暗い部屋に俺の声は飲み込まれた。 だけど、今でも聞こえてくる。 両親の怒鳴り声。 机を叩く音。 物が割れる音。 俺がイラつきながら、階段を駆ける音。 勢いよく閉まる扉の音。 そして、日常が壊れていく音。 もはや幻聴でしかないその音たちは、1年以上経っている今でも、どうして聞こえてくるのだろうか。 俺はそんな考えをかき消すかのように、荒々しく靴を脱ぎ、制服を脱ぐ。 少し大人びた服を着て、辺りが暗くなるころまで、ゆっくりと時間を過ごした。 そして、家を出る。 繁華街まで10分ほど歩いて、少し周りを見渡せば、女の子がうじゃうじゃ。 少し前を通るだけで、黄色い声が上がる。 毎日毎日、飽きないやつら。 そう俺は、心の中で罵った。 どこか絶望に近い感情を抱いている俺は、仕事場に近づくに連れて、その感情を消し去って、仕事モードに変わっていく。 そうすると、自然と女は俺に近寄って来る。 「勝君よね?」 俺はここらでは有名らしい。 そりゃそうだ。飽きもせず、毎日のようにナンパみたいなことを繰り返していたから。 それは心に空いた穴を埋めるように。 馬鹿みたいに、発情している雄のように、性欲を満たす為だけのように。 俺は、毎晩、フェロモン全開で、この辺をうろついていた、これは少し前のこと。 最近では、今みたいに簡単に女は釣れる。 する必要がなくなったといえば、そうなのだろう。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加