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「健斗落ち着け」
普段温厚な健斗が感情に任せ叫ぶ姿を初めて見た正輝は、驚きながらも健斗を宥める。
役を演じきって満足感に浸っていた千尋だが、健斗の様子を見て慌てて口を開いた。
「すまない。少し大げさに、バカっぽく演じてしまった。本当にすまない」
「健斗君。ごめん」
千尋はそう言うと頭を下げる。
亜美も少々やり過ぎたと、千尋に続き頭を下げた。
さすがに2人の女性に頭を下げられた健斗は、我に返ると気持ちを落ち着けるように呼吸を整える。
数十秒の時間を要して、健斗はやっと普段の様子を取り戻した。
「俺の方こそすみません。取り乱してしまって」
落ち着いた健斗は、頭を下げた。
その姿を見た面々は、ほっと胸を撫で下ろした。
すると千尋は、説明を続ける為に口を開く。
「しかし私と亜美君が演じた内容は、多少大げさだったかもしれないが、似たような会話はされていたはずだ。こういう女は直接男には言わない。しかしサインは出しているはずだ」
「サインですか?」
健斗は千尋の言葉で、当時の事を振り返る。
だが、千尋の言うサインを記憶から見つける事が出来なかった。
そんな健斗に気づいた千尋は、ヒントを提示する。
「別れる間際、君とデートしている時、彼女は頻繁に携帯をいじったり、つまらなそうな態度を取ってはいなかったか?」
その言葉を聞いた健斗は、再び当時を振り返る。
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