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そして千尋の饒舌はまだ止まらなかった。
「チョコレートにもこのPEAは含まれているので、バレンタインというイベントは理にかなっているのかもしれません。好きな人にチョコを食べさせ、恋愛をしやすくする。考えた物ですね。話は脱線しましたが、恋愛によるドーパミンとPEAの分泌は、3か月ぐらいで落ち着いてくるのです。それが原因となって、恋愛の熱が冷め、今まで相手の良い部分しか見えなかったのに、相手の悪い部分が見え始めて、別れる人も多いのだと思います」
全ての説明が終わったのか、千尋は残りのコーヒーを飲み干すと、亜美におかわりを要求する。
亜美はカップを受け取ると、コーヒーを淹れ始めた。
健斗と正輝は、やはりこの人は教授なんだと千尋を再認識し、尊敬の眼差しを向けていた。
そして亜美が淹れたコーヒーを受け取った千尋は、一口飲むと3人に向けて口を開く。
「何か質問はあるかね?」
すると亜美が手を上げる。
「亜美君。なんだね」
「ドーパミンとPEAについては分かりましたが、恋愛が続く人と、そうでない人の違いは何でしょうか?」
亜美の質問を受け、千尋はすぐにそれに答える。
「良い質問だな。3か月ぐらいしか続かないのは、主に思春期の恋愛に多く見られる。まだ恋愛の経験値が無く、相手の事をあまり知らない状態で恋に落ちれば、熱が冷めた頃に不満が溜まって別れるのだろう。恋愛が続く人たちは、多少なりとも相手に悪い所があって当然だと割り切っている人たちが多い。だから熱が冷めても、相手を受け入れる事が出来るのだろうな。全てがこれに当てはまるわけでは無いが」
説明スイッチを切った千尋の説明を聞いて、3人は納得したのか、千尋の凄さが分かったのか、口を半開きにしたまま、時が止まったかのように微動だにしなかった。
千尋はそんな3人の様子など気にせず、コーヒーを飲みながら説明で疲れた体を癒している。
しばらくして3人は我に返ると、千尋が口を開いた。
「まあ一目ぼれだけで相手への勝手な理想像を作って突っ走ると、失敗しやすい。健斗君。君はまだ若い。これから色々な女を観察して、人を見る目を養う事だ」
千尋はそれだけ言うとパソコンに向かい、別の恋愛映画を見始めた。
もうこれ以上この話題には興味が無いと言わんばかりの千尋に、亜美はホワイトボードを片づけ、健斗と正輝は一言礼を言って教授室を後にする。
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