ある話

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世界的に浸透された1冊の本の冒頭に綴られる。 遥か古来、男女の性別があるように女は魔女として魔法を、男は魔術師として魔術に分かれて、世界は魔法と魔術で互いを認め合わず二分されていた。 ある時一組の魔女と魔術師が結ばれる。間もなく、新たな生命が生まれ人々は「奇跡」と呼んだ。 そして『奇跡』は一言目に「認め合え」と発し世界は一つになる。 『奇跡』は成長するごとに才能が咲き乱れ、ついには若年で人類の頂点に至り世界を纏めた。 しかし、神はこの行いを許さず世界に地震と雷を7日7晩起こし世界をバラバラにした。 そして『奇跡』にも生涯拭えない不幸をまとわせる。 一方の『奇跡』は、世界の天災後多くの側近を連れて10年掛けて、分かれた大地を歩き通す。その道中は今までのとは遥かに異なっていて、独自の世界、文化、言語、価値観に困惑し、さらには良いことをすれば「奢り」、躊躇えば「役立たず」と罵声を浴びせられる。そんな『奇跡』の姿に呆れ、裏切り、失踪し1人、また1人と側近たちも彼の地へ離れていく。 そして、再び帰ってきたのは光の無い瞳に例えようもない表情をした『奇跡』と最後の地で側近になった2人だけだった。 その夜の晩餐の席で側近から渡された猛毒のスープを口に運び、表情を変える間もなく『奇跡』は息を引き取った。そして、始まりの地の頂点に最後の側近が成る。 『奇跡』の遺体は天に最も近い山の木に貼り付けられる。数多の風雨陽雷が遺体を傷つける。 彼の聖なる血は木を伝い、根、そして大地を染み浸す。 彼の聖なる肉骨片は灰となり、天から世界中の空を包み広がる。 それらはすべての者を平等にして、『奇跡』の一端を与えられる。 死して再び『奇跡』は認められた。
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