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II
奇遇にも冬杜も図書室に用があったみたいなので、一緒に入る。
まったく相も変わらず静かだ。
人気のない場所だから僕は気に入っているわけなのだけれど。
冬杜は、借りていた本を返しに来ただけのようで、分厚いソレを見たときは、驚いた。
冬杜の奴はさらに知識を増やそうとしている。
本格的にわからないなんてことがなくなってしまうのではないだろうか。
既に僕なんかじゃ図りきれない膨大な量の知識があるようなのに。
などと考えながらも、備え付けの机に腰を降ろす。
今日はこれと言った用は持ち合わせていないのだ、強いて言うなら、気まぐれ。
「あの子は確か、琴吹 言ノ葉さんだね。お琴の琴、風が吹くの吹くと書く方の琴吹─コトブキ─さん」
唐突に。
向かいの席に座りながら話す冬杜。
「あぁ、あのぶつかった人か。さすが、知ってる冬杜さん」
「やめてよ祇園君、茶化しても何にもならないよ。琴吹さんは誰もが知ってると思うんだけどなぁ」
せっかく褒めたのに少しも照れてなさそうに言う冬杜。
さらには誰でも知ってると言うではないか。
すぐさま、脳内検索エンジンを使用するが、僕は知らない人物だ。
「知らないんだね。たしか、同級生で、全国模試が2位で、運動も出来るみたいで色々な部活に助っ人として行ってたみたいだよ。最近は学校にきてなかったはずだけど」
冬杜のその言葉を聞いて、真っ先に浮かんだのは
絵にかいたような奴だ。
小説の主人公のようだ。
全国模試の1位は冬杜なんだろうな。
なんて、言うものではなく。
何故、僕は知らない。
ソコだった。
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