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不意に風が吹いた。
僕と琴吹さんの間を通り抜け、木を揺らす。
「そんなもの」
そこで、一度区切る。
すぐにくるであろう言葉に耳を傾けた。
「死ねないからに決まっているじゃない」
ゾワッとした。
背筋がざわざわした。
鳥肌がたった。
表現のしようは数多くあるけれど、あの一言には、微笑みながらの一言には、何かが籠っていた。
僕はそう感じた。
飄々とした態度に口調の琴吹さん。その一言だけ魂が、心が籠っていた。
どういう意味なのか。
そんなことを考えられないくらいに。
この人が、恐ろしく綺麗に映った。
「私はもう行くわ。さようなら祇園君」
おもむろに立ち上がり、飄々とした口調を出してから、僕の前を横切る。
その瞬間、一際強い風が僕らを突く。
今日は風がよく吹くな。
目にまでかかる長さの前髪を押さえる。
視界に入る琴吹さんを見て、自然と声が漏れていた。
「……え!?」
僕が見た琴吹さん。
髪の毛がちっとも揺れていなかった。
この強風の中、琴吹さんだけが世界から切り取られたかのような。
琴吹さんだけ時が止まってるかのようだった
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