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どれほどの時間が経っただろうか。
いくつもの問答を繰り返し、男に疲れが見えてきた頃、壺から質問とは違う言葉が放り込まれた。
「うん、君の精神はやはり素晴らしい。なかなか見込みがある」
「ありがとうございます」
「では、歌をうたってくれたまえ」
男は目を丸くした。
「ここで歌をうたうのですか」
「うん、ひとつくらい何かうたえるだろう。さあ、ほら」
「しかし、歌をうたうこととテストには何か関係があるのでしょうか」
「いいかい。神というのは全能でなければならない。全能とは何でもできるということだ。歌のひとつもうたえずに、全能である神になどなれはしないよ」
「はあ」
壺からの説明に、男は納得のいくような、そうではないような複雑な心持ちだった。
しかしここまできて、やはりやめます、とは言うことができなかった。
「わかりました」
男は観念したように、むかし親から教わったこの地域に伝わる古い民謡をうたいはじめた。
自分が慌てふためくたびに、雑木林がごそごそと動いているような感覚を男は覚えていた。
まるで自分をあざ笑っているかのような不思議な感覚を。
壺は静かに男の歌を聴いていた。
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