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「さあ、もうそろそろ畑へ戻ろうか。あとひと頑張りといこうではないか」
男は自分を奮い立たせるかのように独語すると、板敷に据えられていた腰をゆったりと上げながら、ぐうっと伸びをした。
「そこの者。おい、こちらだぞ」
男が背を伸ばしたと同時、どこからか声がした。
それはずいぶんと歳を食ったようなしゃがれた声で、男か女かも判然とはしなかったが、どうやら誰かしらに話しかけているのだなということだけはわかった。
「君、おい、君だよ。こちらを見なさい」
男は不思議に思った。
どうもその声というのは庭から聞こえてくるらしい。
しかし、今日は来客の予定など無い。
このような年老いた声の知り合いも男にはいなかった。
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