家庭裁判所

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 ぼくは小学校3年生。 この間まで2年生だったけど、今はもう子供じゃないよ。  ぼくには弟がいる。 いつもわがままばかり言って、ぼくを困らせるんだ。 ぼくが自分のおこづかいでお菓子を買ってくると、決まって弟はお菓子を欲しがってだだをこねる。 でも、あげないよ。 だってぼくが自分で買ったんだもの。 弟はだだをこねはじめると、いつも泣きだすんだ。 弟はまだ子供。  弟が泣きはじめると、いつもお母さんがやってくる。 「あら、どうしたの? ケンカはだめよ」ってね。  そうすると、すぐに弟はお母さんに泣きつくんだ。 「お兄ちゃんがいじわるする」ってね。  それを聞いたお母さんは毎回おなじようにくりかえすよ。 「すこしぐらいいいじゃない。お兄ちゃんでしょ?」  お兄ちゃんはいつも我慢しなきゃいけないのかな。 すこしはやく生まれただけで、我慢ばかりしなきゃいけないのかな。 お兄ちゃんって損なんだなあ。 弟って得なんだなあ。  でもね、ぼくは知ってるよ。 もう少し大人になったらね、年下のほうが損なんだ。 だってね、いつもお父さんがお母さんに言ってるの聞いたよ。 会社では年上の、じょうしって人に怒られちゃうんだって。どうして自分があやまらなきゃいけないんだって文句言ってたの聞いたよ。 年上って怒りっぽいのかな。 年下ってペコペコしなきゃいけないのかな。 ふしぎだね。  また弟が泣いている。 ぼくの食べてるプリンが欲しいんだって。 でも、これはぼくのおこづかいで買ったんだ。 あげないよ。  やっぱりお母さんが来た。 弟があんなに泣くからだ。 「ほら、お兄ちゃんなんだから」  聞きあきたよ。 いつだってお母さんはその言葉で片付けちゃうんだ。 ぼくはお母さんの言葉にしたがうしかないよね。 だって、言うことを聞かないとお母さんはぼくを怒るんだもの。  しかたがないよね。 お母さんの言うことはぜったいだからね。 ぼくと弟が言い合いをしても、お菓子の取り合いをしても、ケンカをしても、お母さんはそれをつぶやいて、その場をおさめちゃうんだ。 「お兄ちゃんでしょ?」  どちらが悪いかどうかはどうでもいいんだよね。 だって、その言葉を言えば解決するもんね。 べんりだよね。 つごうがいいよね。 しかたないよね。  ここは家庭という名の裁判所。 裁判長はお母さん。
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