ペルソナ

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 その井戸端会議をそばで聞く者があった。 それは他でもない、八百屋の主人の話し相手である彼だ。 「そうか、そろそろなんだね。長かったなあ」 「僕も君と同じように、こちらの世界では友人ができなかったんだ」 「君を初めて見つけた時、僕たちはきっと良い仲間になれると確信したよ」 「君も僕と同じ、友達のいない寂しい人間だから」 「ペルソナの話、君には通じたかな。ごめんね、僕も、君の友人という仮面をかぶってたんだ。でもようやく本当の友達になれるよ」 「また夜に会いに行くからね。お医者なんかに頼っちゃダメだよ。だって、もうすぐなんだから」  彼はこのように、誰に言うでもなく独り言をつぶやき、いつものようなにやけ顔を携えて、先ほどまで会話を続けていた二人の女の間を煙のようにすり抜けた。  女達が彼に気づくことはない。 彼の姿は誰にも見えず、彼の声は誰にも聞こえず、彼の足先は透けていた。
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