ペルソナ

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 奴が私のもとを訪ねてくるようになってから、もう数ヶ月になる。 毎日、深夜のある決まった時間に奴はあらわれる。 ちょうど私が眠りにつこうかといった頃合いにやって来て、私の寝室の窓を外から叩くのだ。  奴が何をしにここへ訪ねてくるのかといえば何のことはない、とりとめも無い世間話をしに来ているようなものだ。 私としばしくだらない話を続け、明け方になると奴は帰っていく。  自分で言うのも憚られるが、私は友人が少ない。 気心の知れた人間など皆無といってもいいだろう。 理由はいたって単純で、私の性格が偏屈だからという他ない。 この厄介な性格のおかげで、言わなくてもよいことまでつい言ってしまうものだから、多くの人間は私を避ける。  そんな私にとって奴はいい話し相手となった。 初めのうちこそまったく相手にもしなかったが、この頃になると私も奴が来るのを心待ちにしている有り様だ。 もちろん、奴が来るのを嬉々として待っていることなど、私はけして表には出さない。  奴とこういった仲になってからしばらく経つが、いまだに何の目的で奴が私に近づいて来たのかは定かでない。 もしかすれば、奴もまた話し相手が欲しかったのやも知れぬ。  思えば私は奴について何も知らない。 素性も、目的も、容姿も。 いつも窓越しに映る奴の影に話しかけ、それに応答する声を聞き、また私は話しかける。 今ではそれが当たり前になっているのだ。 分かっていることといえば奴の性別が私と同じ男だということくらいか。 しかし、そんな些末な疑問など、私にとってはもはやどうでもよかった。
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