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今日も夜がやって来た。
「やあ、こんばんは。調子はどうだい」
いつもの時間にやって来て、いつもの軽々しい口調を使い、こうやってまたいつもの夜が始まる。
「体の調子は良くないね。お前さんが毎日こんな時間に訪ねてくるもんだから、ちっとも寝れやしない」
相変わらず私はこういった話し方しかできない。
本当は話し相手ができて嬉しいにもかかわらず、それをそのまま表現するような素直さを持ち合わせていないのだ。
ただ、体調が優れないというのは事実ではあった。
「それは悪いね。では商売の方の調子はどうかな」
奴の軽々しい口振りを私はどうにも気に入っている。
それはおそらく奴の話し方が、こちらの気遣いを必要としていないかのような、飄々としていて独特なものだからなのかもしれない。
「調子もくそもあったものか。向かいに大型の量販店が建ってからはこっちさっぱりだ。閑古鳥も鳴きやしない」
言い忘れていたが、私は小さな八百屋を営んでいる。
親の代から受け継いだものの、前述のとおり客足は芳しくない。
とはいえこの店を畳んだところで食いぶちに困ってしまうし、何より父親から継いだものをあっさり捨てるのは心苦しいものがあった。
「それは残念だ。だが、お客が来ないのは君のつっけんどんな態度もあるのじゃないかな」
そう軽口を叩いて、奴はいやらしくクスクスと笑った。
「人の性格をどうこう言えた義理かね。まったくもって大きなお世話だ」
まるで小言の言い合いのようにも聞こえるかもしれないが、これが私たちなりの雑談なのだ。
なかなかどうして、こんなやり取りが心地よい。
こうやって何気ない夜は更けていく。
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