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「それじゃあそろそろ僕は帰るよ」
影がそう告げた頃、気づけばもう明け方となっていた。
「ふん、もう来るんじゃないぞ」
私は本心とは違う言葉を口にして影を見送る。
「そんなことを言われるとまた来たくなっちゃうなあ」
そして奴は帰っていく。
私はそれを確認し、幾度かの咳を払ってから床に着く。
長い一日の終わりだ。
朝。
清々しさなど欠片ほども見当たらないいつもの一日の始まり。
あくびをしつつ、睡眠不足と八百屋の憂鬱を抱いて私は起き上がる。
店を開け、卸業者から品を受け取り、乱雑にそれを並べる。
このところの客といえば、昔からここを贔屓にしている馴染みの人間くらいなものだ。
それが来るまではやることもない。
暇を持て余して、ただただ私は店先に立つ。
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