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「あら、あそこの八百屋さんどうしたのかしら。いつもはもう店を開けている時間なのに」
「あなた知らないの。あそこのご主人、体調を崩して寝込んでるのよ」
「それは大変だわ。前から顔色が悪かったものね」
「この前ご近所の方に聞いたんだけれど、なんでも、夜中になるとあそこのご主人、毎日真っ暗な部屋で1人ぶつぶつ何かつぶやいてたらしいの。どうもほとんど眠れていなかったみたいよ」
「そうなの。そういえば、向かいに大きなお店ができてから、お客が来ないって悩んでいたものね。精神的に参っていたんでしょう」
「私もお医者に行くように言ったんだけど、ほら、あの人って頑固でしょう。放っておけば治るって聞かなかったのよ。そうしたら倒れちゃうんだから困ったものね」
「それで、大丈夫なのかしら」
「けっきょくお医者様に来てもらったらしいんだけどね、ここだけの話、あまりご飯も食べなくなっちゃったみたいで、そろそろ危ないらしいのよ」
「あら、それは大事じゃないの。お見舞いに行ったほうがいいかしら」
「やめときなさいよ。お見舞いに行ったところであの人のことだから、門前払いされるに決まってるわよ」
「それもそうね」
八百屋の主人の知らぬところで、近所の主婦の間ではこのような会話が交わされていた。
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