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彼女たちには、時間の概念自体がそもそもそれほど必要ない。ここでは、日が昇れば朝が来て、そして日が沈めば夜が訪れる。何時からが朝で何時からが夜だなんて考える必要がないからだ。年中を通して温暖で四季の境がハッキリしない『ここ』では季節、そして年を考える必要がない。境界山であるモンターニュ・ドュ・リミットを越える必要がある者だけが、あの山の降雪を確認する。たったそれくらいしか時間感覚が必要のない場所だ。
「どうして先見者をしているか、だったよね? ミシェル」
この子も大きくなった。この子の母もまた、大きくなった。そして、その母も。その上は、言うまでもない。
月日は百代の過客にして行き交う年もまた旅人なり。この言葉が年々身に染みてくる。私も随分と歳をとったのだと実感できる。年数にしていったいどのくらいの歴史を私は歩んだのだろう。いや、歩まなくなってどれくらいになってしまったのだろう。自分以外の時の流れは刻銘に覚えているというのに、私は自分自身の時の流れを正確に思い返せない。
いつ私の時は崩壊したのか、いつ私は道を踏み外したのか。そういったことを思い出したくないせいかもしれない……。しかし、ミシェルの問いに答えるには、私はそれを一――いいや、零から思い返さないといけないだろう。ハッとしたように小さく頷いた彼女を見て、私はそのようなことを思った。
「長い……長い話になるよ。時間は大丈夫かい? ミシェル」
私は建て直されて四十と一年が経つ草原の真っただ中にポツンと建っている小屋の中をたんぽぽの綿毛を追うようにふわっと見回した。手入れできる者がいなくなり、私の足が行き届かないところは、私同様にその年月に相応しい朽ち方をしている。そんなことを再確認してから、青々とした地面と空しかない外を窺うような真似をした。
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