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「大丈夫だよ。今日はね、わたし、一人で来たんだよ」
「一人で? 本当に?」
「うん! もうわたしだって立派に空を飛べるんだよ! だから今日はスフィーの背中には乗ってこなかったの!」
そう言って彼女は誇らしげに私に背中を見せてきた。なるほど。確かに、華奢な身体に纏った背中が大きく開いた白色のワンピースからは、大空を舞う雲のような輝きを放つ翼が二対、背に仕舞われようとしているところだった。世代が越えてもこの翼の美しさはやはり変わらない。初めて見た時は、自分たちの力を横に置いて腰を抜かしたものだった。
「ちゃんとお母さんには言ってきたんだろうね?」
「むぅ。そんなことより褒めてよー」
『向こう側』の普通の人間に比べると歳の割に身体の成長が早い『こちら側』のミシェルであっても、ぷくっと顔を膨らませる幼さにはやはり歳相応のものを感じる。可愛らしくて、見た目の通り天使のようだ。しかし、それとこれとは別だ。
「言ってこなかったんだね?」
「……うん」
「素直でよろしい」
そう。素直であるべきだったんだ、私は。
「へへ。褒められた」
褒めてはいないよ。私はそう言いながらまた一つ彼女の頭を優しく撫でた。そうすることで素直でいてくれるのであれば、エゴイズムに染まらないことを約束してくれるのであれば、私は褒めよう。何一つ褒められるようなことをしていない私がそのようなことをする権利はない。咎人である私がそのようなことをすることは、決して許されることじゃない。
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