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「いいかい、ミシェル。絶対に自己中心に生きてはいけないんだ。たとえ何があろうとも、それだけは絶対にいけない」
「……うん」
「だから、セパールの街に帰ったらまず、ミシェルが心配をかけていると思うみんなに謝りなさい。それを……約束してくれるなら、私は君の質問に答えるよ」
ミシェル。君は私のようになってはいけない。
「わかった! 約束する!」
約束は、何があっても守るんだよ。心の中で呟いた。
「それなら、話そう。向こうの部屋に使っていない椅子があるから、それを持ってきなさい。それと……その側に机があるから、その引き出しに入っている箱を持ってきてくれるかい?」
明るく頷いてタタッと走って奥の部屋に入っていく彼女の後姿を見ていると、私は私の失った大切な者たちを思い出す。陽炎のように曖昧で、時雨のように不鮮明。だけど、確かに過去の私が持っていた大切な時間。彼女の問いに答えるには、そのすべてを話さなければいけない。今までの沈黙を紐解き、封をしていた心を解き放つしかない。
「よいしょっと。もう。重たかったよー」
「ごめんね。……ああ、ありがとう」
ふぅ、と息をついた彼女から私は金属の箱に厳重にしまっていたそれを取り出した。私の一番大切な記憶の記録であり、そして罪の証でもあるそれは、その不思議な銀白色の輝きを漂わせているその箱に納められている。何年経とうともこの金属は衰えることを知らない。
「大丈夫だもん。それに、カインさんは手伝えないでしょ! 歩けないんだから!」
そうだね。私は短く答えた。彼女の走ったその距離は彼女にとってはとても近いのに、私にとっては果てしなく遠い。ああ……。失ってからしかわからない大切さばかりだ。
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