お慕い申し上げておりました

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「女だということを。」 普段の、何でもないときならば、目の前にある、この月明かりに照らされている端正な顔にときめきでもしただろう。 しかし、彼は射抜くように爽和を見つめている。 「お前は何者だ?」 疑いの眼差し。 信じられていない目。 見るな。 そんな目で私を見るくらいなら見るな… その目に私を映さないでっ お願い、いやだ。 止めて… っ 「見る…な…っ! 止めて、よ…お願い…」 ずるずると体から力が抜けて、へたり込んでしまう。 その時、腕も解放された。 へたり込んでしまった爽和に合わせるように、斎藤も廊下に腰を下ろす。 「………だよ。」 小さ過ぎる声に耳を澄ませて次の言葉を待つ。 「そうだよ。 私は知ってる。 貴方達の始まりから ――――――終わりも全て。 全部、何もかも知ってるっ…!」 ひゅっと空を切る音。 喉元に感じるひやりとしたもの 体に突き刺さるような気迫。
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