お慕い申し上げておりました

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「可笑しいよね。 この痛みも、斎藤様の存在も夢じゃないなんて。」 全部、現実なんだ。 そして、幕末まで来ても、私は思い知らされる。 信じてはもらえない。 信じられない。 この突きつけられた刀には、きっと皆の私への疑心が乗せられている。 刀を鷲掴みにした爽和の手から、ぱたりぱたりと血が滴り落ち床に赤い染みを作る。 「…離せ。」 「もしも死んだら、私はどうなるのかな? 存在は残らないんだろうね。」 「離せ。とにかく、落ち着け。」 斎藤は疑う気持ちよりも、心配する気持ちが勝ってきていた。 しきし更にきつく握る爽和の手があるから、刀を退けたくても退けられない。 「っ…ごめんなさい。 今のは忘れて下さい。」 はっとしたように、ゆるゆると手が離れれる。 下ろした手からは、また赤い雫が落ちていく。 「悪いが、忘れることはできない。 もう一度言う。 俺はお前を疑っている。」 その言葉にまた、爽和の肩がぴくりと跳ねたのが見えた。 何故、そこまで過敏に反応する? 何か抱えるものがあるのか?
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