お慕い申し上げておりました

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「お前の言葉だけを聞いていたら、間者だと疑わざるをえない。 が、俺にはどうもお前が真の間者だとは思えない。 だから本当のことを話してくれないか? 疑いを晴らすために。」 斎藤は刀を鞘に収め、爽和の側に腰を下ろす。 「疑いを…晴ら…す…ため?」 問い返してきた声は細く頼りなげで、俺を見上げる瞳は揺れている。 「そうだ。 話してくれるか?」 「…話したら信じてくれるの? 無理、ですよ。 自分でも信じられないんですから。」 目を伏せて、ふるふると首を振る。 「信じる。だから頼む。」 すると、先程まで伏せていた目はきっと俺を睨みつけた。 「"信じる"なんて言葉、簡単に言わないで下さい。 …でも、話します。 斎藤様に疑われたままというのは嫌ですから。」 そう言うとへたり込んでいた体勢から居住まいを正し座り直した。 そのまま話し出そうとするから、『待て』と止める。 「何ですか?」 「手を出せ。」 爽和は言われるままに右手を斎藤に差し出した。
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