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絵一との深い心の痛みも幾らか癒(い)えた真弓は、
それから二日ほどして出社した。
カレンダーは捲れて師走となり、
ショーウィンドーにはXmasの飾り付けが本格的となった。
「ねぇ癒えた真弓先輩、どうなさいますか?」
なさいますかぁ?
そう訊かれて、真弓は振り向きざまに応えた。
「ふーーーっ
これば見てよ、この仕事の山をば。
あたしが、休んどる間に山積みされちょるがね。
それに、お目当てはキミちゃん、あんたじゃけんね。
まぁ……年増のあたしは、枯れ木も山の賑わいってとこょ」
「癒えた先輩!
それらの仕事は、先輩でないと処理出来ないものばかりで……。
癒えた先輩に指示して貰えば、わたしは喜んでお手伝いしますよ」
「癒えたは余計じゃよ……。
キミちゃん行っといで。
あたしゃこの山を潰すことにするがね」
紀美子は残念そうな表情をして、
早速その旨(むね)を男子諸君に伝えに行くのだった。
真弓の会社は代々木にあって、
規模は中堅どころの、主に出版物や諸々の印刷関係の仕事を熟(こな)していた。
会社は幾つかの部と、それを繋ぐ幾つかの課に分かれており、
部によって仕事の内容は異なるが……。
真弓の所属する処のニ部三課では、
主に演劇・映画・コンサートなどのチケットやパンフレット類の仕事を手掛けていた。
課の人員は十二名くらいで、
真弓はここで課の事務処理を、紀美子と共に行っているのだった。
それで、
飲んで騒ぐメンバーはいつも決まっていた。
真弓も入社した頃は、周りからチヤホヤされていたのだが、
それは三十路を境にして、ピタリと止んだ。
またそれに伴(とも)って、真弓の酒癖の悪さも、
徐々にテンションを上げていったのだった。
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