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悠哉のボールが雄叫びあげて飛んで来る。
まばたき以下のわずかな時間で、武島はコースを把握した。
──予告どおりのど真ん中。
──このコースよりわずか上が、バッティグポイントだ。
脳からの信号が全身に走る。稲妻よりも激しく光よりも速い。武島の闘争心が伸びやかに戦いのドラを鳴らした。
火の玉のような速球に、精密機械のように狂いなく武島のバットが襲いかかる。
──もらった!
将吾も同じだ。
──打たれた!
だが、しかし──
悠哉の奇跡が、武島のドラを打ち砕いた。
ど真ん中に飛んで来たボールが、ググッ、ググッっと引力に逆らい浮き始め、最後はグゥンと大きく浮き上がってきたのだ。
──なんだと?!
武島のコンピューターが素早く、ボールの軌道修正するも間に合わない。風を切り裂く武島のバットは、ボールのはるか下を通過した。
悠哉の化身がミットの中で勝ちどきをあげる。
ズドォォーン!!
グラウンドは水をうったように静まりかえった。ベンチの面々は顔色をなくす。あまりにも信じられない光景に言葉を発せられないでいるのだ。
──ど真ん中から高め一杯に浮き上がったぞ
──そんなバカな
──ありえない
だが、信じるしかない。
奇跡のようなことが目の前で起きたのだから。
──凄い、凄すぎる
投球フォームを戻した悠哉が問う。
その口調は夕凪ぎのように静かだった。
「審判、判定は?」
我に返った審判がごくりと息をのむ。
乾いた口びるが、戦いの終わりを告げた。
「ス、ストライク! バッターアウト!」
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