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福岡に戻った悠哉は海風をあびていた。海岸に打ち上げられ静かに寝そべる丸太に座る悠哉の隣には、未希が寄りそっている。二人の指定席だ。
「勝てて良かったね」
やんわりと未希が微笑む。
「紙一重の勝負だったけどな」
「でも、立花さんは喜んだでしょ」
それがな──
と、悠哉は笑いを噛みしめながら未希に話しだした。
悠哉たちが広島から戻ると、部員たちが練習後の片付けを始めていた。すでに日は暮れかけ、紺色の空には銀の粒がまぶしく散りばめら始めていた。明日も晴れるだろう。
おー、帰ってきたか、と迎えてくれた汗まみれの立花に、壮行試合の相手を告げた。それが選抜の覇者、広島西城高校だと知って、立花は目をみはる。喜びよりもまず驚いていた。
「マジか?!」
そして立花が吠えた。
「ウオー! 広島西城なら申し分ない、最高の相手だぜ。ありがとな」
そして立花は喜びを身体で現した。いきなり、その場でバク宙をやったのだ。しかし、勢いが足らず後頭部をしたたか打つはめになった。
未希は両手で口を押え目を開き、同情をこぼした。
「かわいそうに。痛かっただろうね」
悠哉はまだ笑いをこらえている。
「三年前の日本シリーズで、西武の秋山がやったバク宙ホームインを真似たらしい。悶絶する立花に全員が大爆笑だったよ」
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