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楽しそうに話す悠哉に、未希の目がわずかに怒りの色を見せた。
「そうかも知れないけど、笑うのはひどいわよ」
未希に顔を向けた。まだ話したこともない人間に同情して、笑う悠哉を叱る。あー、やっぱり人の痛みが分かる優しい人なんだな、と悠哉はひとりごちる。
「えっ? わたし変なこと言った?」
悠哉は口角を上げ、未希の頭をポンと軽く叩いた。
「何でもないよ。でもその言葉、立花が聞いたら喜ぶだろうね」
悠哉の目は首をかしげる未希から、目の前に広がる玄界灘に向いた。いか釣り船がぽつりぽつりと遠くに浮かび、人家の灯りが浜に寄せる波を白く照らしていた。
ここ渚市はマンモス都市の福岡市と北九州市の間にある、人口五万人の小都市だ。
大企業も、政府の補助金を受けられるような施設も無いが、豊かな自然に恵まれていた。
気軽に登れる山があって、広く田畑が広がり、夕焼けが映える海もある。この遠浅の海岸も来月には海水浴客で賑わうことだろう。
学校に戻ったその足で悠哉は未希に会いに来た。はた目には余裕で広島西城の三人を押さえたように見えて、実はかなり神経をすり減らしていたのだ。
それを補ってくれるのは未希しかいない。顔を見て少し話をするだけで、悠哉の心はフラットな状態に戻れるのだ。
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