涙の胴上げ

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  「試合は今度の土曜日の午後からだよね」 うん、と短く応えた悠哉を、未希がのぞき込む。意味ありげな視線だ。気づいた悠哉は顔を引く。 「何、どうしたの?」 照れるのか、未希はスカートの端を掴んでパタパタとさせ、海を見ながら言った。 「ううん、ただわたしも見たいなって思ったの」 「試合を?」 恥ずかしそうに未希が顔を背けた。 「だってまだ、悠哉が投げるところを見たことないんだもん」 そっかぁ──。 始めて未希が見に来た北九州国際附属との試合は、小西が投げてたし、将吾の打球に未希は気を失い、試合途中でおれが病院にかつぎ込んだんだった。 まだ、おれの試合を見せてなかったよな──。 思い直して悠哉が言った。 「お父さんの許可が出たら見においで。ただし、試合場所は広島だぜ」 パッと未希の顔が輝いた。嬉しそうに話し出す。 「うん、行く行く。ちゃんと許可をもらうし、一人で行かないから、大丈夫だと思うよ」 うん、それならいいよ、と悠哉はうなずいた。 「でも、完全アウェイだからね」 そうだった、と未希は口びるを結んだ。 だけど、わたしにも出来ることがある。 「ねえ、部員の人たちは何人居るの?」  
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