106人が本棚に入れています
本棚に追加
悠哉の思いは確かだった。
(予選開始まで、あと一ヶ月。今年は絶対に甲子園で優勝する。
そしてプロに入って、母ちゃんを楽にさせるんだ)
悠哉のランニングは続く。潮の香りが強くなった。もうすぐ海岸だ。
(ん……?)
悠哉は足を止める。
足下に、白い紙飛行機が落ちていたからだ。
(近所の子供が飛ばしたのかな)
悠哉はそのまま走り去ろうとしたが、紙飛行機に文字が書いてあることに気がついた。
紙飛行機を広げてみる。
そこには赤のマジックで大きく『みんな死んじまえ』と書いてあった。
「何じゃこれは?」
思わず口をついて出た。
悠哉は辺りを見回した。
フェンスの向こうには、五階建ての病院が建っている。白いタイルの壁は、夕陽に赤く染まっていた。
他には、民家らしきものは見当たらない。
(何かのいたずらかな)
悠哉はその紙を、お尻のポケットに入れてランニングを続けた。
その悠哉の後ろ姿を、病院の二階の窓から、誰かが見つめている。
その顔は夕陽を受けて、血のように真っ赤だった。
最初のコメントを投稿しよう!