第1章

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返事は威勢よく。行動は、そうは行かないけど。 「日子(ひこ)、日子、早く!」 「待ってってば、夜子(やこ)」 あちこちにぶつかる。しょうがない、古い平屋を改築した建物なんだから。あああお父さんが何故か買ってきたたぬきの置物が倒れたぁぁぁぁぉぁぁぁぁ! 「夜子!お願い手伝って!」 「はいはーい」 ぱたぱたと軽やかな足音がする。音の大きさから鑑みるに、夜子、お前すぐそこにいただろ。早く気付いて来て手伝えよ。 双子なんだから、解れよ。 「はいはいごめんね日子ーっ!今手伝うから」 「ごめんあたしより今すぐそのたぬたぬ助けてあげて」 「おっ、たぬたぬ倒れてる」 ふーふーふーふーふーふーんと鼻歌を歌いながら(なんの歌かと思ったら君が代だった。何故だ)、たぬたぬを救出する。その腕も、顔も体も声も、あたしと寸分たりとも変わらない。そう言えば、昔はみんなを騙して遊んだ。 「よし、行こうか日子」 今はもう、無理だけど。
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