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「ねぇ日子」
「なぁに、夜子」
「そのさー……ケイ?くん。本当に来るの?もう五年も前の話なんでしょ」
「……来るよ。約束した、から」
「てかあたしー、そのケイくんと会った記憶ないんだけど」
あたしの後ろで、夜子が首を傾げた気配がした。日傘が、微かに揺れる。
「本当に、ケイくんなんて、いたっけ」
「……いたよ。夜子は、確かあの時風邪引いて寝てたから」
「あー……五年、前。十二歳か。あっ、うんだったね!風邪引いてた!」
「そん時―――、会った」
ここで。と呟く。小さな村にある唯一のバス停。ベンチはすっかり色褪せてしまっていて、座ったらばきりと折れてしまいそうだ。小屋みたいになってるけど、屋根は三年前の台風で吹っ飛ばされた。
屋根が吹っ飛ばされても、木陰があるから大丈夫だけど、ぼんやりしてたら蝉やらカブトムシやらクワガタが落ちてくるから、気を付けないといけない。
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