第1章

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「そ、れ、で、日子」 「なに」 「日子はそのケイくんと会ってどうしたいの」 「……解んな、い」 「……そ」 「夜子、もう行っていいよ。よしちゃんたちと遊ぶ約束してるんでしょ」 「でも」 「大丈夫。こっからなら一人で帰れるから。あぁでも、日傘はちょうだい」 ん、と夜子が日傘を渡した。行ってら、とあたしが言ったら行ってきま、と言われた。お揃いの、白いワンピースが視界の隅で揺れる。 蝉時雨、太陽光、遠くに向日葵が咲いている。 「やになる、よ。ばか」 夏もお前も大嫌いだ。 こつっ、と傘になにかが当たる音がした。蝉かカブトムシか。まだカブトムシの活動時間じゃないから、蝉か。 「……あ、」 ぶろろろ、と危なっかしい音を立てながら、バスが来る。思わず乗り出してしまうのが、あぁ、未練。 「あっ、えと、こんにちは」 「こんにちは、日子ちゃん」 顔見知りのバスの運転手さんは、朗らかに笑う。
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