しょっぱいマシュマロ

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ため息をつきながら、イチカからマシュマロを奪い取る。 包装紙を手荒く破り捨て、箱のフタを開けた。 驚いた様子のイチカに、箱ごとマシュマロを突きつける。 「一個、食えば」 「え、……で、でも、そんな……悪いし」 「誰かにやるつもりなんてなかったし……食べたかったんだろ? ほら」 遠慮するイチカを気遣って、先に一個とって、自分の口に放り込む。 甘酸っぱいイチゴの香りが口の中に広がった。 「うん、結構美味いぞ」 そう言いながら、もう一度イチカに差し出した。 今度は遠慮がちだが、一個だけ手に取ってくれる。 薄いピンクの塊を、イチカが空に掲げた。 「すごく可愛い……」 そう言って、しばらく眺めてから口に入れる。 味わうように何度も咀嚼を繰り返し、そのまま俯いてしまった。 ……え、どうした? 「イチゴが……しょぱいよ……」 ……えええ!! まさかの負の感想に、俺は驚いた。 たしかに、バニラ味に比べれば酸味が少し利いているけど、しょっぱいなんておかしい。 不思議に思ってイチカの顔を覗き込むと、俺はさらに仰天した。 イチカの頬に涙が伝っていたのだ。 「ど、どうしたんだよ!」 ……そんなに不味いのか? 泣くほど不味いのか? 「……ごめんなさい。……イチゴじゃなくて、涙がしょっぱいんだね」 そう言って、ハンカチを取り出して涙を拭う。 それでも、拭いた先から涙が後を伝っていくのだ。 ハンカチが間に合わなくなったイチカは、両手で顔を覆ってしまった。 「……イチカ」 どう声を掛けていいかわからず、そのまま口ごもる。 「……私、三木杉くんにフラれちゃった」 切ない声が指の隙間から漏れ出す。 泣いてるイチカの肩が震えている。 自然にこぶしを握りしめていた。 俺なら……俺が彼氏なら、イチカをこんな気持ちにさせないのに……。 悔しくて仕方がなかった。 恋愛の神様のイタズラに、この足でドロップキックをしてやりたかった。 歯がゆい思いが、我慢の限界を超えてしまう。 イチカの小さな肩を引き寄せて、そのままギュッと抱きしめた。 「か、カオルちゃん?」 「そうやって、俺の名前を呼んでくれる限り、俺がイチカを守る。……イチカの騎士は俺だけだ」 ……言ってしまった。 もう、元には戻れない。  それでも後悔はなかった。 ここで拒まれたって、先に進まないより絶対マシだ。 ただのお隣さんだなんて、もうたくさんだった。
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