しょっぱいマシュマロ

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「言っとくけど……俺をカオルちゃんって呼んでいいのは、イチカだけだからな!」 そう、これは他の誰にも呼ばせない。 小さな頃から、隣の女の子だけに許された特権なのだから……。 思いの丈を打ち明けた俺は、こっそりイチカの顔を見た。 潤んだ目が、驚きを隠せないでいる。やたら瞬きを繰り返していた。 「……ど、どういう意味? どうして他の人はダメなの?」 ……ショック。 ここまで言っても、イチカは理解してくれないらしい。 ……ああ! どんだけ、鈍感なんだよ!! クソぉ! 「……だから! 俺はイチカが好きなの! ただのお隣さんなんて嫌なんだよ! ……友チョコとかじゃなくて、イチカの本気のチョコが欲しいんだ」 ……包み隠さずの直球メッセージ! 今度はちゃんと受け取ってくれ! 目ヂカラ全開で訴えた。 すると、イチカがスカートのポケットに手をいれて何かを取り出す。 てのひらを開くと、小さなチ●ルチョコが、こんにちはとあらわれた。 「……はい。これあげる」 ニッコリ笑った顔は、尋常じゃないほど可愛いのに、やってる事は鬼のようだ。 ……ウソだろ。 マキには手作りのチョコで……俺にはチ●ルなの? あんまりじゃない? 困惑した表情でイチカを見つめると、 「お腹……すいたんでしょ?」 ……って、ちがぁ―――う!! ……何? 前半の俺のセリフ、全部カットなの? 後半も、色恋抜かれて、単なるチョコのおねだりになってるし! 腹なんて減ってねーよ!! つーか、俺の話をちゃんと聞け! 「あのさ! 俺は……」 セリフの途中で、イチカの人差し指が俺のくちびるを塞いだ。 「……カオルちゃん! お願い……それ以上言わないで。 私、そんなに器用じゃないから……」 イチカの懇願に、俺は言葉を失くしてしまう。 「フラれてすぐ、次の人なんて……無理だよ。……そんな簡単な事じゃないもん」 頭を横に振る彼女に、俺は何もできなかった。 「……ごめんなさい」 ああ、謝るのは俺の方だ……。 イチカの気持ちを知ってて……ズルいよな。 ……そうだよ。イチカがマキを好きになった時点で、こうなる事はわかっていたんだ。 ホントにごめん……。 でも俺は、どうしてもイチカに気持ちを伝えたかったんだ。 これまでの八年間、イチカの為に頑張ってきたから……。 けじめをつけなきゃ、次に進めないんだ。 だけど、これで区切り……イチカ姫から卒業だ。
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