しょっぱいマシュマロ

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「ないです! 南先生の婚約者は、細ガリですから!!」 俺の代わりにイチカが断言する。 「こ、婚約者?!」 「写メを見せてもらいました」 ……そう。南ちゃんは細ガリ男が好きなんだ。 って、婚約の事まで言っちゃったよ。……内緒なのに。 「ウソだぁー!! ウソと言ってくれぇー!! ふじよしぃぃぃ!!」 青い空に、マッチョの雄叫びが響き渡る。 「……残念ですが、本当です。……先生」 女って容赦ないな……と、ちょっと怖くなった。 「嗚呼!! みなみせんせいぃぃぃ」 谷っちがヒザから崩れ落ち、地面に手を着いて号泣する。 オーバーアクションがマックス状態だった。 春を知らせるには冷たい風が、そんな谷っちの体を芯まで冷やしていく。 3月14日の今日。……脇役がここに散った。 「イチカ、戻ろう。……ここに居たら、風邪をひく」 イチカの手を取って、扉へ向かう。 「え、でも……谷川先生が……」 「いいって、マッチョは風邪ひかないし……頭も冷やした方がいい」 なのに、イチカが俺の手を離し、谷っちの側に駆け寄る。 打ちひしがれるその背中に、そっとジャケットを掛けていた。 ……ああ、イチカは優しいな。 ……って、それ、俺のジャケットだし! ちょっと天然なイチカは、やっぱり可愛いかった。 ……まあいいか。後で返してもらおう。 戻ってきたイチカと、もう一度手をつなぐ。 今はまだ、仲良しのお隣さんだが、いつかきっと……。 そう 今度こそ 主役の座は誰にも譲らないと、心に誓った。 (おしまい)
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