しょっぱいマシュマロ

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殊勝さを装って、頭を深く下げる。 こうしておけば、これ以上の詮索を受ける事はない。 案の定、ミタさんは俺の肩を2回たたいて背中を向けて歩き出した。 それを見送ってからホッと息をはく。 「いつからそんな悪い子になったんだぁー?」 ぎょっとして振り向くと、柱の影から俺の担任が顔を出して笑っていた。 「た、谷っち……いつからそこに?」 「そんなウソ、斉藤先生は騙せてもー、俺はだませんぞぉー」 嬉しそうに側にやってきて、たくましい腕で肩を組んでくる。 「騙すって、別に……」 「There is nothing you can say. はい、訳してみて」 「ええ? あー、えっと、あなたが……言える事は……何もない……ですか?」 「85点。……お前に弁解の余地はない!……だ。 普段から言ってるだろ。 情緒豊かな日本語に訳せって。 まあ、この場合……ヒザが痛いからって、授業中も上の空な理由にならないぞって事だな」 ……イタイところをついて来る。 しかも、英語教員だから注意の仕方もまわりくどい。 「この前の試験も、散々だったじゃないか……。どうした平瀬? 失恋はそんなに辛いのか?」 ……アンタな。 今度は直球かよ。 「谷川先生……」 「ん?……なんだ? 言い訳は聞かんぞ」 「南先生がこの前言ってましたよ。……マッチョはキライだって」 南ちゃんは谷っちの片思いしている相手だ。 そして谷っちは、筋肉をこよなく愛するマッスルバカだ。 「そ、そんな……ウソだろ?」 「ウソじゃないです。ムキムキは論外だそうです」 ……無論、谷っちは気持ち悪いぐらいのムキムキマッチョ体形だ。 「ウソだぁー!! ウソと言ってくれぇー!! ひらせぇぇ!!」 谷っちがヒザから崩れ落ちて、廊下に手を着いた。 何をするにもオーバーアクションな人で困る。 「嗚呼!! みなみせんせいぃぃぃ」 教師とは思えない所業だ。 ちょっとやりすぎたかなと反省するが、まあ、とにかく ……ね、 失恋は辛いでしょ?   先生に身をもって理解してもらった。 申し訳ないが、泣き崩れている谷っちをそのままにして、急ぎその場を離れる。 階段を上り切って、扉の外へ出た。 冷たい風が頬を切る。 3月は、春と言ってもまだまだ寒い。 この時期、屋上に出てくる人影はさすがになかった。 ひとりベンチに座って、風の冷たさに身を縮める。
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