しょっぱいマシュマロ

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冷えた手で、持ち込んだ紙袋を開けた。 中から取り出したのは、キレイに包装されたマシュマロだった。 イチカの好きな、有名洋菓子店の高級マシュマロ。 普段はバニラ味だけなのに、この春、数量限定でイチゴ味が販売された。 まさにホワイトデーのお返しを見込んだ、店側の販売戦略だ。 店に踊らされるのは気に食わないが、当のイチカが踊りだしそうなほど喜んでいる。 それを見た俺は、イチもニもなくそれを予約した。 仕方ないじゃないか……。 俺はイチカが好きなんだ。 アイツが喜ぶ事は何でもしてやりたいと思ってしまうんだよ。 幼稚園の頃から隣に住んでる女の子……藤吉一香(フジヨシイチカ)は俺の幼なじみだ。 頭がよくて勉強は出来るのに、なぜか天然で抜けているところがある彼女。 のんびり屋だけど正義感が強くて、そして誰に対しても優しかった。 お菓子作りが得意で、笑うと右頬にエクボが出来る。 その姿は、どんな女の子よりも可愛くて……俺をすっかりトリコにした。 とにかく彼女は、俺にとって理想のお姫様だったんだ。……だから 「イチカを守る騎士(ナイト)になる!」 小学校に上がる時、俺はすでに自分の家族にそう宣言していた。 姉貴に爆笑されたけど、構ってなどいられなかった。 その日から俺は、騎士になるための努力を始めたからだ。 まず、早生まれでイチカより背の低かった俺は、食べ物の好き嫌いを失くした。 食も細くて、食べる事がニガテだった俺だけど、大きくなる為に何でも食べた。 苦手な牛乳を沢山飲んだ。 キライな給食も率先してお代わりした。 イチカに「カオルちゃんは、食いしん坊さんだね」って笑われたけど、背に腹は変えられなかった。 さらに、頭の出来が悪い俺は、勉強にも精を出した。 絶対にバカだとバレないよう、見えない所で必死に頑張った。 かと言って、スポーツ音痴ではカッコがつかないので、早朝のジョギングも欠かさずこなした。 そのかいあって、小5でイチカに追いついた背丈は、中2の現在170cmに届いた。 成績も何とか学年上位を維持し、スポーツに至っては運動神経が元からよかったおかげで、去年からバスケ部のエースとして活躍していた。 こうした努力が実を結び、最近ではイチカに「カオルちゃん、スゴイね!」って、褒めてもらえるようになった。 しかも、俺の為にお菓子を手作りしてくれるというオプションつきだ。
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